大判例

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東京地方裁判所 昭和28年(行)91号 判決

原告 入野梅次郎

被告 裁判官訴追委員会

一、主  文

原告の訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告は、「原告が訴追の請求をした裁判官長尾信、有路不二男、田中正一について、被告裁判官訴追委員会が昭和二十八年十一月六日附でした訴追しない旨の決定は、これを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、請求の原因として次のとおり述べた。

原告は昭和二十七年十二月六日附で被告裁判官訴追委員会に対し長尾信、有路不二男、田中正一の三裁判官について罷免の訴追をすべきことを請求した。これに対し、被告は昭和二十八年十一月六日附で訴追しない旨の決定をし、原告は翌七日その決定書の送達を受けた。

しかし、この不訴追の決定は次の理由によつて違法である。昭和二十七年十二月から昭和二十八年四月国会解散まで在任していた被告の委員長高橋英吉以下の全訴追委員は、本訴追の請求があつたことを知らされず、従つて訴追を請求した事件について何ら調査、審議をしていない。また昭和二十八年五月二十七日就任した現委員長牧野寛索以下の全訴追委員も、少なくとも同年九月八日までは、本訴追の請求があつたことを知らされなかつたばかりでなく、訴追請求者及び前記三裁判官の陳述をきかず、その他事件につき何らの調査をしていない。そして最近に至つてにわかに不訴追の決定をした。

裁判官を訴追すべきか否かは、全訴追委員の良知能に基いて決すべきものであり、各訴追委員は独立して職権を行うべきものであるから、前記の経過をたどつてなされた右不訴追の決定は違法である。

よつて本件不訴追の決定の取消を求める。

以上のとおり述べた。

被告は、「原告の訴を却下する。」との判決を求め、その理由として次のとおり述べた。

裁判官訴追委員会のやつたことの適否は、裁判官弾劾制度の特質(憲法が、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するために特に、両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設けた趣旨)からいつて、司法裁判所の判断を受くべきものではない。仮りにそうでないとしても、訴追の請求は訴追委員会の職権発動を促す行為に過ぎないから、訴追委員会のする不訴追決定の通知は、抗告訴訟の対象たる行政処分には当らない。

以上のとおり述べた。

三、理  由

わが憲法は、立法、司法、行政の三権を原則として分立させ、例外としてその間の抑制をはかつている。憲法七六条一項が「すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。」としたのは三権分立の原則の現れであり、憲法六四条が「国会は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける。弾劾に関する事項は、法律で定める。」としたのは抑制の精神の現れである。

裁判官に罷免の事由があるか否かを決定するのは判断作用であり、本質的には司法権の作用に属する。これについて憲法六四条は前記のとおり規定した。弾劾裁判について司法裁判所が関与できないことは同条一項によつて明らかである。同条二項は「弾劾に関する事項は、法律でこれを定める。」と規定し、これに基いて成立した裁判官弾劾法は、裁判官の訴追及び裁判の手続を定めている。その訴追の手続に関して司法裁判所が関与できる趣旨の規定はどこにもみえない。憲法、裁判官弾劾法、裁判所法等を綜合的にみると、裁判官の弾劾に関しては、その訴追の段階で行つた処分の適否についても、司法裁判所は裁判権を与えられていないとするのが相当である。これ右抑制の制度の正しい理解であると信ずる。

裁判官弾劾法一五条一項の趣旨、従つて不訴追決定通知の性質についても疑問はあるが、この点の判断をするまでもなく、本訴は司法裁判所の裁判権に服しない事項について出訴したという点において不適法であるから、訴訟費用の負担について行政事件訴訟特例法一条民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 新村義広 入山実 鈴木重信)

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